「なんでか分からないけれどいい家」の法則

暮らしの中でこんな経験ありませんか?

普段の生活や暮らしの中で「なんでか分からないけれどいい!」という物に触れたり、見たりした経験はありませんか?理由はその瞬間はわかりません。一瞬の間に、「いい!」となって、心を捉えるもの。私は日々の中でそういう機会が結構あります。あります。というよりも、いいと思うものやきれいだと思うものに飛び込んで、その法則や理由を日常の中で探す癖があると言った方がいいかもしれません。建築や空間でなくても、日常使う道具や目に触れるものにもそういうものはたくさんあります。例えば、日々使う何気ない器や家具、文房具、服など様々です。

「なんでか分からないけどいい!」形やデザインに気づきたい!

設計や形を作ることに携わっているのでその理由に気づかないくらい何気なく、さり気ないシンプルな物の存在を「あえて見つけたい!」と日々、過ごしております。そのことに気づくことができ、その理由や法則を見出すことができたら、それを形にする(私の場合は設計に生かす)ことができると思うからです。日常、これは自分の中で「揺るがない法則」を使って、設計する空間や形の使い勝手を思考して、その物の表情とのバランスを整えたりしています。

設計の大発見は既にありました。。。「ゲシュタルト心理学」

自己完結型の思考で「これはきっとすごい発見だ!」と自分に言い聞かすように思い込んで来た数々の図形の法則。もしかすると感覚的な話なので反論もあるかもしれませんが、いろんなデザインや設計に通ずる法則の内の1つを紹介しようと思います。今回のものは「ゲシュタルト心理学」という分野でも説かれている現象のようです。(私としては、ずっと心の中にあった考え方ですが、この世紀の大発見を他の誰も気づいていないか?と今回お話しするに当たってネットで検索してみましたらばっちりとありましたよ。。。笑)

心理学としての難しい説明はできませんが、私としては1つの建築物や住宅が、全体的な形として、「調和」や「リズム」を持って完成するための宝物のような法則だと感じており、設計の中で普段から大切にしています。

図解、「プレグナンツの法則」

下の図は「ゲシュタルト心理学」の「プレグナンツの法則」を表したものです。ある要因によって視覚の対象物をグループ化して脳が認識するという法則です。視覚による膨大な情報量を脳が処理するために情報を単純化してくれるんです。ということは実際に目で見た事実が少し変化して認識されているということ。

例えば上の図の上の行は円がいくつか並んでいます。均等にただの円が並んでいるとしか感じませんが、これらの円が2個ずつで近づくと、その2個の円で1つのグループに見えてきます。あくまでも円単体で見ると、同じ形の図形です。縦線も同様です。均等に配置されているときに比べて、2本ずつで線を近づけるとグループが見えてきます。


つまり2個、もしくは2本で1つの図形に見えてきます。これは図形同士の距離が近くなると、脳が「かたまり」として、情報を単純化しています。

形への応用

先ほどの図は一例ですが、他にもグループ化して見えることをパターンとしてあげてみましょう。

例えば白黒の丸の図形を順番に並べる組み合わせとして、上の図を言葉で表すとこんな感じです。

白黒白黒白黒白黒
黒黒白白黒黒白白
黒黒黒黒白白白白

という配列で配置した時に、ある「かたまり」が見えてきます。ただの丸の配列の中に、です。何気ない感覚ですが、これって実はすごいことではないでしょうか。例えば自然界の昆虫が、この丸い図形の色の順序や秩序を感じるか。「感じる」という研究があったらすみません。笑

このように、形の順序を「ルールとして捉える」ということは、自然界にはないと思います。つまり、このグルーピングや秩序は、あくまでも人の頭の中でのみ起こる出来事ではないでしょうか。そして、この図形の順序や反復によって、視覚的な「リズム」と「調和」が生まれてきます。

私はこの法則を大切にしたいと思っています。家や空間は人の手が作る人為的なものです。この法則を考えずに「形」や「空間」が作られるとどうなるか。あえてランダムなデザインや設計もあると思いますが、それには類まれなバランス感覚が必要でしょう。「桂離宮」の設計者である小堀遠州は1つの建物の中で全ての均整が取れてしまうと、息が詰まる(表現は定かではないですが。。)ので、あえて一部を崩してバランスを取る。と。

それは相当な設計術の使い手、上級者の意見であって、いつしかそんな高みに届きたいですが、まずは基本を考えれば、空間や家全体としての均整や調和がうまく取れているかに注力したいところです。

もっと空間や設計の秩序となりそうなヒントを描いてみる

はい、こちら。ほんの一部ですが、色々な配列を描いてみました。この配列はグループを作るというよりも、順番に図形を並べてみる。というように描いたものです。丸や四角の図形の中の白と黒の距離によって、色々なグループが見えてきます。「あれ?こうやってみると、こんなグループが?」というような、新しい視点も生まれそうです。さらには、行を越えてグルーピングが見えた人もいるかもしれません。もし見えたとしたらそれは私が意図したものではなく、その図を見た人の頭の中で起こった出来事です。きっと私が意図しないグルーピングを見つけた人はたくさんいると思います。

家の窓で考えてみる

今度の図は家の外観を描いたものです。あまり複雑な形状だとわかりにくいので、窓が2個ある三角屋根の外観とします。上の家は2個の窓が均等間隔で並んでいますそのすぐ下の家は2個の窓が近づいています。そう、「プレグナンツの法則」を設計に応用するとこうなります。いや、あえて言わせていただきます!普段から感覚的に感じていたことを言葉で置き換えるとしたら、この「プレグナンツの法則」だった!ということです。笑

みなさんも感じたことないですか?


他にも色々な窓の配置があります。さらに庇(ひさし)が付くとグループの雰囲気が一段と増します。実はこのまとまった感覚は外観の表情を作るときにもとても大切なものです。あえて2つの窓を離して配置することでグループどころか窓の存在感を無くしたりということも。

雨がかりを防いだり、日差しをカットしたりする庇(ひさし)ですが、その機能についてはこちらの記事に詳しく記載されています↓

実際の住宅でのプレグナンツの法則

下の写真は現在公開中のショーホーム「丘のいえ」の階段部分。ここまで勉強してきたみなさんは、グループが既に見えているはず。そうです。階段とリビングの空間を分ける「格子」を2本ずつ近づけて配置してあります。均等配置の「面」的な格子壁ではなく、空間を仕切りながら、「面」よりも「隙間」を感じられるようなデザインになっています。

これはほんの一例で、このような秩序は常に意識され、設計が進んでいきます。そして、残念ながらこのことは常に説明として出すわけではありません。全て説明したら、「恐ろしいほど長ったらしくて細かで退屈な説明」になることは 間違いありません。でも、すっきりとした視界の中で暮らしをしてほしいと願っておりますので、「プレグナンツの法則」のような形の捉え方の秩序を意識することで、「なんでか分からないけれどいい家」ができると信じて、図形の法則を探り、空間や設計に生かしてやろうと日夜狙っております。笑


よろしければみなさんも、現地のショーホーム「丘のいえ」でプレグナンツの法則のような設計や形の法則を感じてみませんか?実はこの階段以外にもスッキリと見えるための工夫もたくさんあるんですよ。

おっと、これ以上説明したら「恐ろしいほど長ったらしくて細かで退屈な説明」になってしまうので、これにて失礼いたします。笑


谷 征紀


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