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株式会社 ベガハウス
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スタッフブログ

『設計のまえがき、暮らしのあとがき』

2026/05/14

『素朴な品という豊かさ』を求めて Vol.4 「外」へと、暮らしを解き放つ

『素朴な品という豊かさ』を求めて Vol.4 「外」へと、暮らしを解き放つ


Vol.4 「外」へと、暮らしを解き放つ

住宅地を歩いていると、ふと「もったいないな」と感じることがあります。
こだわり抜いて建てたはずの注文住宅の窓が、昼間から厚手のカーテンで固く閉ざされている光景。外からの視線を気にするあまり、高いフェンスで自らを囲い、せっかくの「外」を拒絶するように暮らしている……。

家を建てたはずが、結局は「壁の内側」という限られた箱の中に閉じこもってしまう。本来そこにあるはずの光や風を、わざわざ壁の向こう側に置き去りにしているようで、プランナーとしてはどこか切ない気持ちになってしまうのです。

私たちが大切にしているのは、「外の世界がもたらす恩恵を、最大限に享受する」という考え方です。 その土地に吹く風、降り注ぐ光、そして季節ごとに表情を変える緑。それら外的要因を暮らしの大きな一因として招き入れ、設計の力で味方につけること。窓の外に広がる庭までを自分たちの居場所として使い切るとき、住まいはただの箱であることを超え、大地と呼吸を合わせる豊かな舞台へと変わります。

窓を、自由にする。

窓の外に緑がある。ただそれだけで、室内には心地よい奥行きが生まれます。 時には草花の繊細な揺らぎを愛で、時には実のなる木を植えて「旬」という恵みを分かち合う。それは、移ろう四季をそのまま室内の豊かさとして享受する、この国で最も贅沢な「生きたしつらえ」と言えるかもしれません。

しかし、庭の役割は情緒だけではありません。私たちは庭を、「窓を自由にするためのちょっとした仕掛け」だと考えています。

視界に入る日常のノイズをさりげなく木々で覆い、お隣や通りからの視線を優しく、かつ確実に遮る。木々が視線を「整えて」くれるからこそ、カーテンを思い切り開け放つ勇気が生まれるのです。そこではじめて、外的要因の恩恵を遮ることなく受け取り、光や風と一体になる開放感を、日常のなかに取り入れることができるようになります。

街を、緑で編み直す。

こうした一軒一軒の庭が紡ぐ景色は、やがて街全体の表情を変えていきます。

かつての日本の街並みは、もっと緑に溢れていました。隣の家の庭木がこちらの窓からも見え、自分の家の緑が通りを歩く人の目を楽しませる。境界線はもっと曖昧で、豊かな緑が街全体を緩やかに繋いでいたはずです。

最近の分譲地のように、一軒一軒がフェンスで厳重に区画され、外部に対して閉鎖的になっていく街並みは、どこか息苦しさを感じさせます。実は人間には、「緑が繋がる景色を心地よいと感じる本能」が備わっています。一本の木が隣の家の木と重なり、街に連続した緑のラインができる。その景色の中に身を置くとき、人は理屈ではなく、深い安らぎを感じるのです。

手入れのいらない合理的な選択も、一つの答えかもしれません。けれど、効率と引き換えに季節の潤いまで削ぎ落としてしまうのは、あまりに寂しいこと。外からの恩恵を遠ざけることは、住まいの醍醐味を自ら手放すことのようにも思うのです。

鹿児島の、庭の流儀。

建物と同様に、庭もその土地の風土と対話してこそ、本当の価値が生まれます。どこでも同じ木を植えるような画一さから離れ、私たちが重んじているのは、鹿児島という風土に根ざした「庭の流儀」です。

例えば、最近目にする機会が増えた「落葉樹を中心とした雑木の庭」。その繊細な美しさは魅力的ですが、鹿児島の強烈な陽射しを浴び続けるには、少しばかり過酷かもしれません。

私たちが提案するのは、常緑樹と落葉樹を幾重にも重ねる「植栽のレイヤー」という考え方です。 まずは、一年中力強く葉を広げる常緑樹で、夏の日差しを和らげる穏やかな木陰をつくる。その守られた日陰のなかへ、風情豊かな落葉樹をそっと寄り添わせていく。この重なりこそが、鹿児島の厳しい夏を凌ぎ、冬には柔らかな光を招き入れる——。この土地の気候に寄り添い、共に生きるための、一つの答えです。

「原風景」を、育てる。

私たちがつくりたいのは、ただ流行の形をなぞっただけの庭ではありません。 時を重ね、建物が風合いを増すほどに緑は深まり、両者がしっとりと溶け合っていく。一軒の庭が隣の緑と響き合い、やがて街全体の景色へとつながっていく。それがいつしか、この土地の「原風景」になっていく。そんな未来を描いています。

家を建てる。それは単に四角い箱を置くことではなく、その土地が持つ土や風、そして鹿児島特有の光がくれる恩恵を丁寧に受け取り、もう一度、自然と繋がり直すことだと思うのです。

「外を遮ること」を考える前に、まずは「どんな光や風を招き入れたいか」を、ゆっくり想像してみませんか。その心地よい境界線の先にこそ、あなたの本当の安らぎが待っています。



連載:『素朴な品という豊かさ』を求めて
文:桓本直紀(ベガハウス プランナー)